2010年11月15日

ツイッターノベル216〜222 テーマ「男娼」

文字数を減らす際は一人称を削ることが多いので、「僕」と書かないと語り手が男とわからない話もある。男である必要があったかどうか疑問なものも。


10/29 216
 彼女には中学三年生と小学六年生の女の子がいる。夫は出張先の東北でバイクに追突され、現地で入院している。彼女は死に物狂いになって昼も夜も仕事漬けだ。そんな事情がありながら君を買うの、と迫ってくるが僕はルールに従い本番はしない。ただしその他のあらゆることは指や舌で。

10/30 217
 個人で体を売っていた頃、数少ない顧客を相手に最初はうまくやれていた。だが数が増えれば危険も増す。目隠しをさせて撮影を始める者や、足枷をしてる間に三人目を招き入れる者が現れた。それはそれで興奮もしたが、左耳を切り取られて以来、個人営業はやめにした。右耳も半分ない。

10/31 218
 かつて僕らは親友だった。五年振りの邂逅で話題に不足はなく、お互いの来し方や彼の子供の事や共通の思い出を語り合った。あっという間に一時間が過ぎた。一時間しか過ぎなかった。「延長する?」と聞くと彼は首を振った。楽しかったよ、と言ってくれた。またね、とは言わなかった。

11/1 219
 裸で待つのは寒い。下しそうな腹にバスタオルを巻く。このホテルでは各部屋にエアコンはなく、送風口から一括して風を送っている。暖かくも冷たくもない風がどろりと吹く。ノックの音がする。その遠慮がちな音で誰が来たか知れた。タオルを落とす。もう腹を下す心配はない。どうぞ。

11/2 220
 僕の小説の師匠は、世間から忘れられた恋愛小説家だった。男女の恋愛を描く名手と呼ばれながらも、実際は筋金入りのゲイで、老齢であちらの元気を無くしていたから僕の貞操は守られたけど、あちこち毎日いじられた。訃報は個人的には届いたが、どの新聞も伝えてはいなかった。黙祷。

11/3 221
 友人との約束よりお金の方が大事なので、急に入った仕事を優先させた。馴染みのおばさんは慣れた手つきで値段分きっちり僕を食べた。友人との約束の話をすると「今すぐ行きなさい」と言って尻を叩いてくれた。友人からの着信は七度あったがのんびりと歩いた。予想以上に怒られた。

11/4 222
 前の客の陰毛が歯に挟まったままキスをすると彼女は黙って僕の歯に手を伸ばしてくれた。裸で抱き合っているのにキス以外しなかった。真剣な顔で、好き、と言われると僕も笑って同じ台詞を返した。彼女は会う度同じことを繰り返した。何度凝視しても記憶から抜け落ちる顔をしていた。


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2010年11月13日

ツイッターノベル209〜215 テーマ「人体」

そういえば「泥辺五郎短編集」に『ないはなし(小片十編)』、「くじで出たお題で小説書こうぜ企画」に、『彼女は重たい』アップしてました。

テーマ「人体」

10/22 209
 口はお互い一つしかないから、話しながらキスが出来ないし、キスしながら乳首を舐められない。でも三つも四つも口があっても僕らはやっぱりキスばかりしているかもしれない。「眠ろう」と僕は言おうとした。三日間寝ていなかった。でも口は塞がれていたし、既に彼女は眠っていた。

10/23 210
 好きなバンドが解散したとか、友達が転校したとか、何かと理由をつけてピアス穴を空けていった。十個目は「キリがよくなるから」というものだった。穴の殆どが塞がってしまった今では思い出せない理由もある。再結成した好きなバンドのライブを、あの時転校した友達と明日見に行く。

10/24 211
 豊かに肉がある背中と違い、指の甲にタトゥーを入れるのは皮膚が薄い分物凄く痛い。けれどその痛みから解放された時の快感が忘れられず、また、十本もあるがために次々と新しいものを彫りたくなってしまう。限られたスペースだから小さな文字を。十本合わせて一編の短編小説を。

10/25 212
 右の眼球を売った金で購入した義眼が届いた。眼帯ともお別れだ。擬人屋で一目見た瞬間から何もかも投げ捨てても欲しくなった。翡翠を通したその目で世界を見てみたいと思った。そのためには今ある眼球が邪魔だったのだ。眼窩にはめて右目だけを開ける。鏡には義眼しか映っていない。

10/26 213
 人を着ているから胸の奥に胸がある。心の奥に心がある。長い間脱がずにいるから中にいるのが本当に自分だったか思い出せないでいる。二重写しに見る夢の中で聞き覚えのある声が鳴る。獣じみていて野蛮なその響きに思わず耳を塞ぐが、内側の耳にその叫びは響き続ける。おお!おおお!

10/27 214
 私は生まれつき、なかった。母親から産み落とされたものの、手も足も、口も鼻も、心も体も存在していなかった。それでも両親は私を慈しみ育ててくれ、次第に私は私となっていった。だから私の肌年齢はずっと若く、恋人はその肌を愛してくれる。幼すぎる心を温かい心で包んでくれる。

10/28 215
 左太股に牙が刺さっている。幼い頃、雑種犬を拾い、飼いたいと駄々をこねた。その犬は私にだけ懐いてくれず、ある日私に大怪我を負わせて失踪した。牙を抱えて生きていると、甘噛みでは物足りなくなる。噛んで、と頼むと男達は優しく歯を立てる。求めているのはそんなものじゃない。

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2010年11月11日

ツイッターノベル202〜208 テーマ「美術」

忙しかったり忘れてたり、書き方を変えたからまとめ方もどうしようかとか考えてるうちにものすごい時間が経っていてびっくり。世界のどこかにこのブログの読者がおられたのならごめんなさい。

ツイッターノベル200編突破を機に、一週ごとにテーマを決めて書いています。
現在「美術」「人体」「男娼」「衣服」と続けており、ひとまずテーマごとに記事もまとめていくので、前回の記事と被る作品もありますが、アップしていきます。
書き上がってる分に際しても、あまり日を空けずに更新していく予定。


10/15 202
 画家の名前が出てこないことがある。絵の印象は言葉より強い。首が長くて白目で、と説明出来てもモディリアーニという名前は後から思い出す。特に画風の割に名前が穏やかなルオーは、ゴテゴテのタッチで宗教画を描く人、という認識で、最近はもう「ゴテゴテ」でいい気がしている。

10/16 203
 高校生の頃、美術教師に告白したことがある。大人をからかうんじゃないよ、と当然振られたが、今思うにあれは恋ではなく、彼女に描かれたいという願望の現れだったのかもしれない。彼女は人物画を一切描かなかった。よく解らないなりに彼女の絵が好きだった。絵筆を握る彼女の指も。

10/17 204
 蝙蝠が消えた。夕刻になると虫を求めて群れて飛び回っていた彼らを、突然見なくなった。/黒く彩られた「ブラマンクの小径」では、黒い衣服に身を包んだ恋人達が溶け合っている。/蝙蝠の消えた空にも時折羽音が響く。食べてくれる者がいないので虫達は狂ったように飛び回っている。

10/18 205
 源氏名を夢二といった。竹久夢二の描く美人画が好きなのだと女は言った。最初のギャル風の化粧から、会うたびに印象が変わっていった。黒髪になり、和装になり、猫を抱き、目が垂れていった。ある日女は消えた。事情は聞かなかったが、以来店には夢二の絵の複製画が飾られている。

10/19 206
 窓から射す陽光が油絵を痛めつけている。カヴァーをかけないと、起き上がらないと、と思う。でも体はベッドから動けずにいる。全身が重い。もういいや、絵はもういい、私の絵は誰も幸せにしてこなかった、私も含めて。もう一度眠る。夕方にはカーテンを閉じて再び絵筆を握っている。

10/20 207
 探している絵がある。以前金に困って売り払った画集に入っていたものらしい。買い取ってくれた古本屋は昨年潰れた。ポーランドかルーマニアの画家の作品で、柔らかくおぼろげなタッチでロマの女を描いたものだった。うまく思い出せないから忘れられないでいる。幸福な夢のように。

10/21 208
 美術部を引退する際、後輩達から寄せ書きの絵画版、「寄せ絵」を貰った。一枚のカンバスに各々の笑顔が描かれている。隙間には美術室の風景や私の横顔が見えた。一部空白があるのは、長期入院している後輩の分だった。空白は二年後、美大で再び私の後輩となった彼が埋めてくれた。

posted by 泥辺五郎 at 18:21| Comment(0) | TrackBack(0) | ツイッターノベル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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