本格執筆前のウォーミングアップ、ちょっとした息抜き、素材作りとして役立つ。あまり綺麗にまとめようとして安易なオチに持っていかないように注意。twitter上では行頭の一文字開けや改行はしていない。
4/7
うちの屋根がカラスの溜まり場になっており、時折うるさく羽音が響く。耳の遠い祖母にその音は聞こえず、目の見えぬ祖父に黒い影は映らない。庭でよろめいていた老雀が一羽のカラスに啄まれている。目の前の惨劇に動じず、老人達は平和そうに茶を飲んでいて、僕はおかわりを頼まれた。
4/8
右目と左目でそれぞれ違う本を読んでいると内容が混ざり合う。太宰治に似た主人公がカジキマグロと格闘し、ピノキオが金貸しの老婆を殺している。本の間に浮かび上がる文字列を指で摘んで僕好みに並べ変えようとしても、とりとめのないものになるばかり。だから僕はエロ本に手を伸ばした。
4/9
腹が減っている時にキスをすると噛んでしまう。お互い空腹の際は噛み合いになることも。そうなれば唇に拘る必要もない。彼女の豊かな腹を噛むと歯が滑る。彼女は僕の浮き出た肋骨を折りたがるように噛む。やがて空腹を満たすために本物の食事の用意を始めると、性欲など消えていて。
4/10
愛していると一度も口に出して伝えたことがなかったので、愛してる、愛してなかった時がない、愛さない理由が一つもない、にゃにににぇぬ、などと最後は猫語でとにかくラブコールを送ってみたのだが、猫のヨシコは尻尾を振ることもせず、飯をくれ、と前脚を上げて催促するばかりで。
4/11
僕は愚痴をこぼしたことがない。苦しみも逆境も楽しんでしまい、心病むことがない。しかし肉体と精神の傷が致命傷に達していることにも気付かず楽しんでしまい、ある日あっさりと死んでしまうかもしれない。そんな時はどうか何もかも忘れて欲しい。僕はかつて生きた。ただそれだけだ。
4/12
手が滑り、ホースが暴れ、長靴の中に水が入り込む。靴下濡れたままで冷房の正面に立ち続け、ひたすら漬け物をパッケージングしていると、それはもう寒くなる。次々と継ぎ足されていくキムチは無限のように盛られ続けていて。「残業行けん?」と聞かれ僕は笑顔で「九時までなんで」と。
4/13
工場跡地に捨てられていた赤子の泣き声が、二日続いた雨の後止んだ。けれど街には相変わらず大人達の泣き声が響いている。娼婦になりたいと呟く爺さんの上着についた血はまだ真新しくて、後ろを歩く黒犬の口は赤く濡れている。眠てえな、と誰かが呟き、死にてえな、と誰かが引き継ぐ。