2009年06月29日

新都社新雑誌雑感

 四月一日に一斉に創刊された新都社新雑誌五誌について、そろそろ方向性が固まってきた頃合いなのでまとめてみた。


「日刊リニア」
 日々止めようもなく流れていく時間の一瞬一瞬を切り取ることを目標に創刊された、日刊ペースの写真誌。「画像プラス簡単な文章」で構成される連載が中心。「今日はどこどこへ行ってきた」(遊び先の写真)「楽しかった」といった内容のもの多し。ニートの名を冠していないせいもあってか、作家陣は積極的に人生を楽しんでいる人が多い。「日刊リニア」よりも、「ニ」の文字の横棒を一本縦にして「十」として、末尾に置き、「日刊リア十(りあじゅう)」と呼ばれることが多い。
 ちなみに僕も卵を割ったら黄身が二つ入っていた日に連載を始めたが、二日目にして書くことがなくなってしまった。


「劇団新都座」
 動画専門誌。新都社連載漫画を実写で演じたものや、文藝作品の朗読などが中心。アニメ企画もいくつかあったが、時間と労力がかかりすぎるためか、どれも頓挫している。特筆すべき機能は、作者にのみ許された閲覧モード「コメント表示ビュー」。流れる映像に合わせて、もらったコメントが字幕として流れる(ニコニコ動画のように)。コメントの多い人気作の場合、せっかくの動画がよく見えないほど大量のコメントが表示されるとか。字幕が邪魔と感じる作者の中には、コメントをもらわない方向で頑張っている方も多いとか。


「季刊新都社○ラの門」
 コミック○ラッパーと提携して始められた、雑誌というよりは規模の大きな企画。年四回、読み切り漫画を募集し、読者投票により順位を決定。優勝者はコミック○ラッ○ー誌上で新連載を始められる。準優勝者や、票数を多く獲得して健闘した作者にも、読み切り掲載の権利が与えられる予定らしい。新都社からどんどんプロ漫画家を輩出していこうという意欲的な試み。
 ただし、小説は募集していないために文藝作者からの執拗な叩きがあったり、読者投票には、コ○ック○ラッ○ーを購入した際に付いてくる投票権が必要という規定が判明したりして、企画に反対するものも増えてきた。六月末に第一回開催の予定だったが、一月遅れることが発表された。


「新都社手淫文庫」
 官能小説専門誌。意外に文藝・ニノベ作者からの参戦が少ない。彼らは既に自作の中にエロを紛れ込ませることに慣れているからか、あるいは直接的なエロには抵抗があるせいかもしれない。
 漫画作者が初めて小説に挑戦してみた、系の連載が多い。「自キャラのエロ絵を描くのは恥ずかしいけど、文字でなら出来るかも」といった、むしろエロ絵よりずっと倒錯した発想から来ているものが多い。また、絵では書き表すのが大変すぎる場面を書けるのも魅力的と映るらしい。
 女性作者によるBL(ボーイズ・ラブ)小説の投稿が半数を超えたので、早くもそれ専門の新雑誌が検討されている。


「瞬間圧縮ZIP」
 張り切って連載を始めたものの「プロローグ」「第一話」だけで投げられた作品を集めたもの。たとえ更新する気があった場合でも、続きが始められないまま三ヶ月経過すれば強制的にここ送りになる。
「堅実に続いている連載作品を読んでいる時よりも、インスピレーションを与えられることが多い」として意外な人気。自作をここで発見し、発奮して続きを書いた作者も何人か現われたが、第三話まで続いた例は今のところない。



 といったことを昨晩妄想していたらなかなか眠れなかった。
posted by 泥辺五郎 at 15:04| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月20日

バトン――あとがきにかえて


Q.代表作と名前を教えて下さい
A.
 文藝新都連載「小説を書きたかった猿」http://neetsha.com/inside/main.php?id=6247
泥辺五郎(どろべ・ごろう)

Q.作品のテーマは?どういった内容の漫画?
A.
 小説を書きたいのにうまく書けないでいる駄目人間のどうしようもない日常。

Q.作品名の由来は?
A.
 あまりはっきりと覚えてないんですが、「人間以下=猿」みたいな発想だったと思います。猿に失礼ですね。

Q.一番描きやすいキャラ、好きなキャラは?
A.
 描きやすいキャラ:「僕」
 好きなキャラ:第11章「雇われ人魚が下手な歌うたって客引きしているゲロだらけの街角」に出てくる雇われ人魚

 
Q.反対に、一番描きにくいキャラ、嫌いなキャラは?
A.
 描きにくいキャラ:父親(あまり話に関わってこない)
 嫌いなキャラ:「僕」

Q.今の所一番気に入ってる話・オススメの話は?
A.
 話というより題名ですが、「家族ノーゲーム(映画「家族ゲーム」のパロディ)」を思いついた時は「よっしゃ!」って思いました。

Q.この作品を描いている時に一番注意していることは?
A.
 語り手を、非常に戯画化した自画像として書いているのですが、自分は経験したことでも、この語り手が経験しているのはおかしい、と思えることをうっかりやらせてしまわないように気を遣いました。

Q.この作品で一番嬉しかった読者コメントは?
A.
 毎回更新のたびに「やめろ」と、sageを入れるでもなくコメントしてくださる方がいて、「ああ、読みましたよ、ってことかなあ」と勝手に解釈して、むしろ書く力になりました。

Q.この漫画の長所だと思う所、短所だと思う所は?
A.
 小説に置き換えておきますが、
 長所:途中に語り手の書く「断片」を挟むことで、空気を変えられる、単調さから抜け出せる。
 短所:登場人物が増えないから話が動かない(だけどこの話の場合、主人公と関わる人物が突然現われるのも不自然)。

Q.ネームはどうしてる?どんなものを描いてる?よかったら見せて下さい。
A.
 漫画ではないのでネームとは違いますが、ネタ出し――書き始め――推敲――発表 までの流れを。

 ネタ出し用にコピー用紙やノートあるいはメモ帳に、だーっといろんなメモや書き出しの文章を書いていくこともあります。ここまではアナログ作業です。次に書くことがある程度固まっている場合は直接書いていきます。その章の流れを最初に書いておいて、軸がぶれないように注意したりもします。ただ、「猿」の場合、全く先を考えずに始めたので、最初の方は完全に行き当たりばったりで書いてましたね。
 これまでどれくらいの文字数を積み重ねてきたかがわかるのが快感なので、「小説を書きたかった猿」というテキストファイルに、まず新しい章を書き加えます。読みやすさを考慮して、ある程度の改行を入れます。書きはしたけれど没にした分は削除せずに、何か役に立つことがあるかもしれないので、別ファイル「猿他.txt」にコピーしておきます。けれどそっちを読み返したことはまだありません。
 次に今回更新分を新しいファイルにコピーし、推敲します。すぐに取りかかるのではなく、少し間を置きます。出来れば一日や一週間が理想ですが、三十分でも充分かな、と思います。ネタ出しから書き始めまでに結構時間がかかっているため、ここで無理に間を取ることもないので。
 題名は先付けと後付けがありますが、後付けの方が多かったです。
 推敲を終えたら、新都社ににsageでアップして、もう一度読み直します。テキストエディタで書いていた時と大分印象が変わるので、直しきれていない部分を発見出来ます。完璧に直したと思っていても、一、二箇所は見つかりますね。それらを直したテキストファイルをアップし、先にあげていた方を削除します。

Q.ペンタブ・ソフト(アナログ作家は画材)は何を使って描いてる?
A.
 ペンタブは一応WACOMのBAMBOO FUNを持っているのですが、小説執筆の際には使っていません。
 テキストエディタはO's Editor2をずっと愛用しています。
 電子辞書はCASIO EX-wordの2004年頃に買ったやつ。
 日本語入力ソフトはATOK2008。
 シャーペンはPILOT S3 0.5。ゴムグリップつきのペンが苦手なんです。 芯はHです。

Q.自分が尊敬している作家、好きな作家、影響を受けている漫画家は?
A.

 古井由吉:七十歳を過ぎても旺盛な執筆活動を続け、しかも質を落とさない恐ろしい人です。評論の一部などに彼の文章が引用されていても、それだけで数日彼の文体から抜けきれなくなってしまうので、大好きなのに読み返すことは少ない作家だったりします。

 森内俊雄:マイナーすぎる気もするので、やや肩入れ度が大きいのかもしれませんが、文体などの影響は一番かもしれません。

 長嶋有:彼のバランス感覚と、どうでもいいことを書いても面白く見せられるといった技術は素晴らしいです。

 新都社内では、プリ山ペニ夫先生、桑石先生、静脈先生といった方々に「発想の制限を外す」ことを教わりました。 

Q.編集部スレにもあるけどライバルだと思う作家さんは?また、その理由は?
A.
 かつて同じところで競い合った方々が何人かプロデビューされたので、ライバルというよりは置いてけぼり感が強いです。
 後藤ニコさんの勢いがすごいなあと思って何だか悔しくて「コ・リズム」を読んでいなかったのですが、今一章を読んでみたら面白かったのでこれから読もうと思います。

Q.最終話はもう決まってる?
A.
 先ほど書き上げました。

Q.自分の作品のテーマソングは何?
A.
 真心ブラザーズの「人間はもう終わりだ」をPUFFYがカヴァーしたバージョン。

Q.ここはひとつ作品の裏話をば。
A.
 TOP絵に猿面の絵を描こうと思い、画像検索をしていたところ、太宰治に「猿面冠者」という話があることを知りました。話の内容まで「猿」にフィットするものだったので驚きました。「猿」の作中には、具体的な作家の名前や作品名を出すことを避けていたのですが、最後に唯一出すならこれだな、とその時決めました。

Q.この作品を描いていく意気込みを!
A.
 複数作同時進行で書こうと思っていたのに、思っていた以上にこれ一作にかかりきりになってしまいました。それはそれでいいことだったかもしれませんが。

Q.次作はどんな作品を描きたい?
A.
 第二部の構想があるので「第一部完」としたのですが、これまでの読者から総スカンされそうな話になっているので、実際に書くかどうかはまだ未定です。あとタモツを進めたいです。
   
Q.このバトンは誰に受け取って頂きますか?
A.
 後藤ニコ先生
 
 
Q.最後にこの作品について一言!
A.
 この作品はフィクションですが、実在の人物と全く関係がないわけではありませんでした。
       
posted by 泥辺五郎 at 14:13| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月15日

珠玉玉石ショートショートレビュー


文藝新都にて開催されている、
「珠玉のショートショート七選」http://neetsha.com/inside/main.php?id=5793
「玉石混交のショートショート集」http://neetsha.com/inside/main.php?id=5921
投稿作の全編レビューです。

 自分は編纂者ではありませんので、ほとんど「好き/嫌い」を評価の中心に置いてレビューしています。
 傾向としては、
・典型的なよく出来たショート・ショートはあまり好きではありません。個性的な作品、荒削りでも魅力を感じる作品、突き抜けている作品の方を高く評価します。
・とはいっても、質の高い作品はやっぱり評価しないわけにはいきません。
・文章作法や誤字脱字については基本的にあまり言及はしないようにするつもりでした。多少読みにくくても個性的な文体の方が好きですし。それでも言及してしまっている作品については、よほど誤字が多いとか、作品として優れているからこそ、もったいないと思える作品です。
・点数はメモの代わり程度の意味です。普段は小説を読んで点数なんてつけませんが、後に七選を選ぶ目安として書いておきました。90点以上なんてのはプロの作品を読んでいてもめったに出るものではないと思いますので、なんとなく80点ぐらいが満点評価に近いかなと思います。「ショートショートとしてよくまとまっているけれど、感動や興奮を覚えなかった」的な話は50点くらい。作品としての態をなしているのか疑問な作品は40点未満(赤点)としました。その他の点数基準は曖昧なので、あまり気になさらないでください。
・時には酷いことを書いているかもしれません。的外れなことを書いているかもしれません。偉そうと思われるかもしれません。殴り込まれたら泣きながら土下座する用意は出来ていますが、怒りのエネルギーも創作の源となってくれたら幸いです。

 レビューの順番は、「珠玉〜」の一番下(最近投稿された作品)から読み始め、未評価分を読み終えた後「玉石〜」に移り、こちらも下から上へ。最後に「珠玉〜」に現在残っている七選分、という流れです。


☆爆弾魔(只野空気) 38
 いろいろと読んでいて引っかかるところが多すぎます。散々じらした割にオチは面白くありません。確かに「膝に爆弾を抱えている」という言い回しはありますが。

☆姉弟ゲーム(作:NAECO)56
 文章力も問題なく、描写されている場面もよく伝わってきます。このゲームに参加したい/自分が参加したならどのようになるか、という想像までしてしまいます。
 ただ、いくつかの理由が書かれないままなので、置き去り感も強いです。どうして姉はこのようなゲームを始めたのか、馬鹿な弟の一目惚れの理由は、どうして語り手の「俺」は怒り出さないのか、などなど。
 登場人物の配置や力のある女性キャラ、ということで、「めだかボックス」の絵を想像しながら読みました。

☆秘密の呪文(作:蝉丸) 62
 秘密の呪文を英語にすることで、理解出来る年齢まで意味を悟られない、というアイデアは素晴らしいです。ただ全体的に文章が平坦で魅力に欠けます。特に序盤、丁寧に描写されすぎていて退屈しました。省略するところはして、強調したいところはする、といった工夫も必要です。全体的に文章力、表現力にあと一歩物足りない気がしましたが、前述の通り呪文のアイデアは抜群でした。

☆悪魔を孕んだ熟女(作:山田一人)評価なし
「怪物を孕んだ少女」ありきの作品。出オチ。これ単体での評価となると……まあ、ありがち、となります。

☆睡魔(作:和田 駄々) 40
 全体的によくまとまっている、ショートショートの見本というような作品かもしれません。ただこの二段オチにしろ、話の構成にしろ、もう過去に何千と書かれているような気がします。

☆レタス猫(作:胃之上候多郎) 60
 シュールな絵本という感じですね。文頭一文字開けがあったりなかったりで少し読みづらかったですが、面白かったです。いろいろとやかく言う作品ではありませんね。絵はしっかり浮かんできました。

☆モザイク(作:胃之上候多郎)53
 話もオチも理解出来るけれど、それを面白いとは思えない自分がいる……。これは全般的に言えることですが、皆さんなんだか大人しく、優等生的な小説を書こうとしているように見受けられます。もっと思い切ればいいのに、もっと非常識なものでいいのに。
 ……と、これを書いた時点では思っていましたが、全作読み終えた後から読み直すと、これは結構思い切っている部類でした。

☆林檎(作:和田 駄々) 50
 惜しい。実に惜しい。林檎の絡んだ物語と主人公が出会っていくアイデアは実に面白い。それなのにこの話自体はあまり面白くない。もっとどのようにも出来たんじゃないか、という思いと、いややっぱりどのような話にしても限界のある話になってしまうのかな、という思いが同時に湧き上がりました。惜しい。

☆フラジルフロイト(作:学)65
 全体的に退屈な作品。蜘蛛と小鳥が哲学的な会話を交わし、結局はジャンキーのトリップだったというどうしようもないもの。けれど、作者の個性が強く表われているだけでも魅力的。見たくないものを見たという気がするのに、嫌悪感や「読まなきゃよかった」という感慨には襲われませんでした。

☆ラジオ人形(作:ゆゆゆ) 59
 後味の悪い作品ですね。全体的に荒削りな印象を受けました。よくよく考えるといろんな点で「?」マークが浮かんできます。小説を書き慣れていない人がアイデアを抱えて突っ走った、という感じでしょうか。

☆初出勤(作:和田 駄々)50
 これも典型的なショートショート。もっと突き抜けて!

☆だれよりも(作:パチ)0
 ここまで評を書いてきて、「読まなきゃよかった」と思うような酷い作品がなかったのが意外でした。ひょっとして全作品そこそこのレベルに達しているんじゃないか、なんて期待を寄せていました。そんなことはありませんでした。

☆ブラザー・コンプレックス(作:犬野郎)59
 正直読んでいてだんだん眠くなっていたのですが、最後でハッと目が醒めました。

☆黒いドレスの女(作:通りすがりの☆馬券師) 58
 小説としてはどうかと思うものの、作者が自分の好きなことを題材に好き放題書いているのが伝わってきて好感が持てました。黒いドレスの女の正体とかこの際どうでもよくなります。

☆地球滅亡まで、あと十二時間!(作:黒糖)70
 面白かった。面白かった! てっきり終末的世界観漂う話かと思ったら、むしろ週末の小旅行的な雰囲気でした。さらっと爽やかに、それでいて大胆で傲岸不遜。楽しませていただきました。

☆真夏のサンタクロース(作:yunumata)57
 少しひとりよがりの感があります。擬音や慣用表現を避けると文章力はもっと向上します。ただ思ったままを書けば、自分が想像している話が読者にダイレクトに伝わるわけではありません。

☆G\(作:只野空気)20
 推敲してください! 推敲してください! 推敲してください! 推敲してください!

☆白い架け橋(作:Kluck) 66
 いい話なだけに、文章の方に目が行きました。全体的に間投詞、接続詞、指示代名詞をどんどん削って文章をスリムにすべきだと思います。
 たとえば、

「そのため、学生時代に地元の有機農業を始めた農家の主人の写真を撮ったこともあった。そういうこともあったせいか、それが作り手の」

 その、そういう、それ、と続き過ぎていてうるさく感じます。

「「あなたの製品とももうお別れなのが残念ですね」
 私はそう言った。
「確かに私も定年ですからね。だから、東南アジアでは種まきをしていたのです」」

「私はそう言った」は必要ありません。語り手と妻との会話でも、長年連れ添っているのだから省略出来る言葉もたくさんあるだろうに、いちいち台詞が多すぎると感じました。
 いきなりなんでもかんでも修正するのは難しいかもしれませんので、接続詞を見るたびに「これは本当に必要だろうか」と考えてみることから始めてはいかがでしょうか。

☆第一回ビニール傘争奪戦(作:藤山芸者)61
 文章作法がどうこうより、小説を書き慣れていない印象。それでも「自分を肥溜めに投げ落とす投身だ。」「価値観を蹴飛ばされた。」「発狂はしてもいいけど場所を選んでください。」といった言い回しは面白かったです。荒削りですが魅力は感じられました。

☆野菜すぅぷ(作:硬質アルマイト)58
 技術的な問題点がない分、却って物足りなさを感じてしまいました。平凡な作品にちょっとプラスアルファ、といったところでしょうか。

☆官僚の流儀(作:通りすがりのT) 64
 歴史ものということで一見取っつきにくそうに見えましたが、意外とさらさらと読めました。作者の力量を感じさせる完成度の高さでした。

☆青い涙(作:fu)63
「女は子宮でものを考える」という言い回しに沿うように、子宮で感じた時に詩を生み出す女性詩人の話。「詩=子」という掛詞にもなっています。好き嫌いの分かれる作品だと思いますが、僕はどちらかというと好きです。ただ、詩の内容にはあまり興味を持てませんでした。

☆ノートの中の彼女(作:NAECO) 78
 病気と少女というベタな設定があり、オチも読めていながら、それらが特に傷とは思えない、良い作品でした。その分「再開→再会」といった僅かな誤字が目立ってしまったのが残念です。この企画の枠を越えて、多くの人に読んでもらいたいと思った作品でした。

☆予感の家(作:瑚逆 哲) 41
 全ての流れがオチのために強引に展開されているため、読んでいて置いてけぼり感に襲われます。特に素晴らしいオチというわけでもなく、この作者の他の作品を読みたい、という気持ちにもなりませんでした。強引な展開は面白さによってカヴァーされますが、面白くないのに強引なのは読んでいてつらいだけです。

☆無罪殺人(作:トリポカ) 52
「アイデアが面白い」というのと「作品として面白い」というのはまた別の話だなあ、と思った作品。関心はしても感動はしない、面白くはあっても好きにはなれない、というか。

☆楽園へ(作:山田一人) 48
 予想外のオチがあればいいというものでもありませんが、予想通りの展開しかしない話というのも退屈なものです。文章力やアイデアに特に欠点がないというのが欠点といえるかもしれません。エロゲに対する興味・知識の問題で、あらかじめ読者との距離感が違ってくるかもしれません。

☆ボーイ・ミーツ・ガール(作:蝉丸) 72
 小説を書いていると、事実を基にしていた話であっても事実だけでは物足りなくなり、物語にもならないこともあって、少しずつ少しずつ嘘を混ぜていくのが習い性になってしまいます。次第に事実のように書いた虚構が実際の記憶と混同してしまいがちになるという、少々危険なことも。
 ですから、本当のことしか話せない、悪気のない台詞を吐き続ける主人公というのは、とても心に染みました。そんな主人公と唯一心通わせることの出来る話相手を作り出せていて、成功していると思います。

☆サラリーマン・スーパーヒーロー(作:富士出月)40
 文字だけで魅力的なアクションシーンを描くというのはとても難しいことです。強すぎる主役を軸に淡々と話が進むので、読者には驚くところも喜び悲しむところも見つけられません。敵対する悪役にも魅力が感じられません。話にはなっている、ただそれだけ、という感じです。
 
☆小さな出来事(作:Q) 50
 題名の通りの小品ですね。ショートショートとしてよくまとまっています。ですがそれだけです。脳味噌が喜ぶことも、体が踊り出すこともありませんでした。

☆探偵兼(作:まいたるく) 50
 この手の話はどれも「誰が書いても同じ」作品に見えてしまいます。たとえば同様のアイデアを複数の人間に提供した場合、どうしてもそれぞれ書き手の個性が表われてしまいます。にも関わらず、こういった作品の作者は、出てきた個性を敢えて削って、無難なところに着地させてしまう癖があるように思います。汎用性のある物語よりも、その人にしか書けないような作品を。百人にそこそこ認められる作品より、たった一人の読者にだけ強烈に響く作品を読みたいです。

屈服の作法(作:通りすがりのT) 64
 長くても読ませます。独自の作風をものにしておられます。理屈先行の話というのは少し寂しい気もしますが、とにかく読み進んでいくことは楽しかったです。

間違い封筒(作:へーちょ) 55
 後から考えると「おや?」と思う点もいくつかあるのですが、テンポよく展開される話と巧い構成により、楽しく読めました。

呪いの蟹ミソ(作:牧根句郎)53
 読み手に読書ペースを強要させるかのような改行には辟易します。この手の手法を用いると、むしろ読み手側からの評価ハードルが上がります。
「これだけもどかしいのだから、ものすごく怖くないと許さない」というように。
 その期待に応えてくれたかというと、今一つ乗り切れませんでした。ただ、終盤に意識が醒めてから文体ががらりと変わる点は評価出来ます。

ハム子(作:熊) 62
 登場人物が皆個性的でキャラが立ってます。この話が終わっても、また始まる前でも、各キャラがそれぞれの人生を送っているように感じられます。アイデア云々よりも、そういうキャラの書き方が出来ているという点が良かったです。
 ただ、面白かったはずなのに、後から題名だけを見ても話の内容を思い出せませんでした。題名作りにもっと力を注いで欲しかったです。

きらいになってもいいですか(作:リヒト)40
 登場人物に想いばかりを語らせていると、読者が共感出来なければうまく話に入り込むことが出来ません。さらには相手の女性の想いも重なり、なにやら凡人には理解不能のやりとりをなさっておられるなあとしか思えませんでした。初対面の人に昨晩見た夢の話を聞かされた気分になりました。

偶然と携帯(作:硬質アルマイト)38
 文章が練られていない点が気に掛かりました。たとえば次の部分

 そしてその携帯をポケットに入れたつもりだったが、その時かなり焦っていたのかポケットには入らず、そのまま携帯は地面へと転がり落ちてしまった。犯人はそれに全く気づかずに仲間と合流し、そしてそこでやっと携帯を落とした事に気づく。
 気が動転した周囲は思わずその携帯に電話をかけてしまう。いや、別にそれで回収ができれば問題はないから特に重大なミスはしていない。
 そしてそれをいつもあの場所を通っている僕が見つけてしまい、そして電話に出る。
 そして今に至ると……。

「そして」「その」「その」「そのまま」「それに」「そして」「そこで」「その」「それで」「そして」「それを」「そして」「そして」
 この短い文中にこれだけの「そ」のつく言葉の乱発はいただけません。他にもきちんと推敲すれば直せるはずのおかしな文章がいくつか見られました。それらが気になって話の方にはにうまく入り込むことが出来ませんでした。

暇つぶし(作:たに)58
 冒頭の一文に引き込まれて一気に読んでしまいました。言葉使いの間違いの多さははっきり言って人前に出せるレベルではありませんが、この話を書きたい、誰かに伝えたいといった気持ちは伝わってきました。ことあるごとに辞書を引き、慣用表現は避けるようにして下さい。

進学校に入ったけれど(作:らぐえむ)65
 人は矛盾を抱えて生きている、人生においても、麻雀においても。そんなことを考えました。主人公がどちらかの道を選び「これからはこの道一本で頑張っていこう」なんて言い出すと、読者はうへえっとなって一歩引いてしまいますが、矛盾を受け入れることで無理にまとめすぎず、読者を置き去りにもしない良作となっています。

聖三部劇(作:フルーツポンチ、脚注:YAMAIKO)69(脚注除く)
 独特の文体が魅力的で、話が進むにつれ現代詩的とも呼べるような代物になり、はまるかはまれないか紙一重、面白いか面白くないか紙一重、といったところを行きつ戻りつしている作品で、思いの外楽しめました。ただ脚注は要りませんでした。

クロネコ収集社(作:ゆゆゆ)25
 いかようにも面白く出来そうな題材を全部台無しにしてしまった感じ。人物の名前などならともかく、行為を伏せ字にしたところで話が面白くなる要素は皆無です。ちぐはぐ、ばらばら、論外……。伏せ字の件がなければ、ここまで言うことはないのですが、あまりにも放り出しすぎです。

お化け屋敷(作:Run walk) 54
 雰囲気は面白いので、改行はここまで開けず、段落ごとに一行開けるくらいで充分だったのではないでしょうか。小説というよりも、絵つきで見てみたい話ですね。ご自身で作画に挑戦されてはいかがでしょうか。

悪(作:rusna)41
 よくある話です。

フィギュアの定め(作:ロリ童貞) 67
 いい話です。オタク的萌え的フィギュア的王道展開といえましょうが、嫌悪感を感じることもなく、楽しんで読めました。作者の愛が感じられます。

没落(作:山優) 40
 ショートショートの型に当てはめて作っている大量生産品のような印象を受けました。もういいんじゃないでしょうか、この手の話は。もっと自分の本性や性癖や欲望に正直に書いた方が面白いものが出来ると思います。

幼女さんと季節外れの雪(作:静脈) 75
 初っ端から暴走気味にぶっ飛ばす様に心を奪われました。題名と冒頭は大事です。多くのWEB小説はその二つの魅力が欠けているだけで、読者となってくれたかもしれない人の九割を失います。遠慮せずに最初から飛ばしましょう、持てる力を注ぎ込みまくりましょう。
 その後の話も楽しく笑え、時には教訓を含み、人によってはエロくもなり、と存分に堪能しました。

目病み男に風邪引き女(作:ときしらず)41
 まずい、目病み男の正体が分かりません。レンズが多い=ロボット? 車? 妖怪? 「眼前の、眼前に包帯を巻いた青年」あたりがヒントなのでしょうか。正体を知りたいがために読み直してみると、文章の粗が目に付いてしまいました。

右手だけつないで(作:犬野郎)58
 二人の世界が作られてますね。恋の前に愛があるようなラブですね。二人の間には深い物語が横たわっているのかもしれませんが、読者にはその表面的なものしかわからないので、感情移入出来そうで出来ないというもどかしさがありました。キャラの実在感とも呼べるようなものが今一つ薄くも感じました。

雪女(作:ハナハタミナミ) 71
 昔話の改作というのはよくあるパターンですが、物語の骨子を変形させるのではなく、陽の当たらない部分を奥深く掘り下げた点に驚きがありました。
 
崖の下のゆき(作:夢見る飛蝗)53
 これも「題材はよいけど面白くはならなかった話」ですね。もっと長くして掘り下げて書けばずっといいものになったかもしれません。土まみれの死体が手を伸ばしてくるという場面はとても印象的で心に残りました。

青い電車(作:fu)60
 電車の中の人々の考えていることをただ書き連ねているだけなのに、奇妙な魅力があります。「小説と呼ばれなくても構わない」「ストーリーがないと非難されても構わない」「これが私の書きたいことだ」といった作者の声が聞こえてくるようです。欲をいえば、最後がお母さんのぼやきと夢想ではなく、もう少し広がりのあるものだったらな、とも思いました。

幽々自適(作:クロマメ)40
 あらすじを三行でまとめたものを読んだのとほとんど変わらない読後感。小説を読む快感を一つも感じられませんでした。文体にも表現にも登場人物にもストーリーにも魅力を感じません。話としての態はなしている。ただそれだけでした。

夕飯(作:飯倉さわら)60
 酷い話なのに、悲劇性を感じさせません。オチは読めていても、自然な流れになっています。

まおちゃん、がんばる!(作:まお)43
「ユルサナイ」に至る点が理解出来るように書かれていれば、ずっと面白い作品になったと思うのですが。惜しかったです。

闇からの呼び鈴(作:顎男) 33
 なかなかいい雰囲気だなと思って読んでいたら最後で落胆しました。無理やりオチをつける必要なんてないし、特にいい終わらせ方が思いつかない場合は、思いつくまで待つとか、いっそ出さないといった選択をすべきだと思います。
 あと、ネット麻雀の部分は気になりませんでしたが、登場人物に新都社作家の名前を出すような真似をしても、誰の得にもなりませんので、やめておいた方がよかったと思います。

駆け出し技術者の情景(作:acht)30
 大抵の小説は、話の内容や情景がよくわからないまま始まっても、だんだんとわかっていくものですが、これは最後まで理解出来ませんでした。書かれていることの意味は読み取れるのですが、それが何故書かれているのか、どうして自分はこれを読み進めなければいけないのか、といった点がずっと不明のままで、もやもやしたまま、いずれ解決、もうすぐ解決、と思って読んでいるうちに、何も解決しないまま終わってしまいました。
 
産業(作:只野空気)40
「民主主義ジョーク集」あるいは「社会主義ジョーク集」といった本に収められていそうな作品ですね。よく出来ているとは思いますが、とっくの昔に誰かがどこかで書いているだろうなとも思いました。

青の濁ったナイフ(作:fu)60
 この方の青シリーズを読むのも三作目。非常に作家性の高い人だと思います。安定感があり、題名の通りの好ましい青臭さがあり、世界観に引き込まれます。それらが自分の好みにストライクというわけではないのですが。
 ただ、この青シリーズのようなものに囚われすぎて、作風を狭くしてしまうのももったいないなあとも思います。

大冒険(作:山優)39
 この話の魅力とはなんでしょうか。
 意外なオチ? 登場人物たちの背景? ドキドキする冒険譚?
 あるいは読んでいるだけで読書の快感で脳から妙な物質が湧いてくるような文体でしょうか。ウィットに富んだ台詞回しでしょうか。
 私にはそのどれも見つけることが出来ませんでした。
 舞台設定を考えて、起承転結の流れを作り、意外なオチをつける。そんなありきたりな話作りから脱却することをお勧めします。

一億を探し出せ!(作:顎男)32
 あまりにも読者に頼りすぎています。「想像してください、こんなことが起こりました」「想像してください、この場面はこんな風です」と提示されても、想像のきっかけとなる材料が少なすぎます。作者の中では、おそらく誰かの漫画の絵で情景が浮かんでいるのでしょうが、全ての読者が作者と同じものを共有しているわけではありません。
 アカギ十巻を持っていないのでオチの意味はわかりませんが、敢えて知りたいとも思いませんでした。

貝印ホームセキュリティ(作:おおむら宥)52
 主人公のエスカレートしていく行動は面白いのですが、最初から最後まで決められたルートをなぞるような展開でしかなく、そこに激しい心理描写で味付けしても、元々伸びしろが少ないのでそれほど劇的な効果は上がっていない、と感じました。ラスト、各トラップに丁寧にはまっていき、少しずつ主人公が死に近づいていく様を丁寧に描写していれば、嫌がる人も多いとは思いますが、好きな人には大層好まれる作品になったのでは、と思いました。

新都社漫画列伝(作:ニーツシェ)63
 アイデアはともかくとして非常に読ませる文章です。評価の対象として、文章力にはあまり重きを置いていなかったのですが、この作品にはうならされました。読みやすく、間違いもなく、伝えたいこともきちんと伝わってきます。この方の書いた真剣な娯楽作というものを読んでみたいです。

預言者(作:リヒト)41
 一貫して説明文だけで終わってしまったという印象を受けました。

ロリータ複合体(作:飯食わせろ)18
 そうですか。

眠い(作:黒糖)75
 部屋を漂うクラゲの幻覚、一見荒唐無稽に見えながら、実際にありそうに思えるぎりぎりのところをうまく選んであります。その後の調理にも、自分が同じ状況に置かれたらそうするだろうな、という現実感を感じられます。小説でいう「リアリティ」とは、ただ現実を正確に写すだけでは得られないものです。この話にはリアリティを感じます。眠いという題名ですが、読んでいて眠気は吹っ飛びました。

パラシュート(作:へーちょ)66
 リズム良い文体、小気味よいギャグ、どれも素晴らしく、大変楽しませていただきました。笑いを取るという点ではこの作品が一番ではないでしょうか。

遠い未来の青い病(作:fu) 62
 男女が隔てられた世界――そこで男が望む夢は女性の肉体ばかりというのも少し寂しい気もしますが、気持ちは分かります。ただ、生身の女性を見たことのない男性が、そこまで女体に憧れを持てるのか、という疑問も浮かびました。

人工庭師(作:成穂宮江草)70
 一枚の美しい絵画のような作品。やや硬い序盤の文体がだんだんとくだけていくのが、統一感に欠けるかなと思いました。もっと他にも人型のロボットはいるんじゃないかとか、他の多くのロボットとの絡みも読みたい、などと思いましたが、手を広げずに登場人物を絞ったのが作品の成功の理由だと考えて思い直しました。

怪物を孕んだ少女(作:山田一人)77
 完成度の高さ、ラスト、文章力、どれも素晴らしいです。上履き→教科書→自転車→猫→人、と次第に対象が大きくなっていく流れがあるので、無理やり感もありません。欲をいうなら「おぎゃあ、おぎゃあ」という産声の表記は少し迫力に欠けるかなと思いました。

石柱(作:古賀なべしき )66
 初回にさらっと読んだ時は、「なんだ一発アイデアものか」と思いましたが、読み直してみると、某番組の細かい流れをかなりの再現度で描いていて、面白く読めました。発見された石柱もヤラセの作り物であるという可能性があるように見えて奥深いですね。

妖精の名(作:飯倉さわら)62
 オチが見事ですね。ただ、その見事なオチに持っていくために話が用意されているように思えて、文章の魅力に物足りなさを感じました。良いストーリーが出来た後は、極限まで文章を練り上げていって欲しい、と思うのは望み過ぎでしょうか。


個人的七選は
「ノートの中の彼女」
「怪物を孕んだ少女」
「眠い」
「地球滅亡まで、あと十二時間!」
「幼女さんと季節外れの雪」
「パラシュート」
「ボーイ・ミーツ・ガール」
でした。案外王道作品ばかりのような。次点で「雪女」。点数は厳密には関係してません。
他に、作品としては粗が目立つものの個性的で好ましかった作品として「レタス猫」「聖三部劇(脚注除く)」「第一回ビニール傘争奪戦」をあげておきます。


posted by 泥辺五郎 at 17:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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