11/19 237
傍らで眠る彼女がうなされながら男の名前を呼んでいた。苦しそうなので揺り起こすと、昔殺した男の夢を見ていたという。憎み合う前の幸せなデートの最中に、殺したことを思い出したのだという。起こしてくれてありがとう、と彼女は言い、殺してくれてありがとう、と僕は返した。
11/20 238
好きな曲をかけてないと眠れないの、と彼女が言う。僕もクラシックを聴きながら眠ることがある。おやすみ、と言って彼女はステレオのスイッチを入れた。マキシマムザホルモンとPANTERAとKORNが朝までリピートされる中、僕は血走る目で彼女の穏やかな寝顔を見つめ続けた。
※ハードコアな友人宅に泊まった折り、PANTERAが延々とかかる中で寝た事実が元ネタ。
11/21 239
路上で眠るには厳しい季節になってきたのに眠るところが路上しかない。吐き捨てられたガムから砂利を取って口に入れる。煙草臭い他人の唾の味がする。離れたところで夢見る若者がギターを弾きながら希望を歌っているが、それは私かもしれない。今は十年前に見た夢の中かもしれない。
11/22 240
鏡の前に立ち、指先で目尻を引っぱり強制的にまぶたを閉じる。ウィンクと違って眉が動かないため、自然な形の寝顔になる。半身だけ起き、半身寝ている自分が鏡の中にいる。いっそのこと両眼を寝顔にしてみようともう片方も同じ要領で瞑らせる。おお、僕の寝顔はこんな風だったのか。
※「両眼つぶったら鏡見えへんがな!」というツッコミ待ちだったがツッコミはなし。
11/23 241
幼い頃、母は子守歌代わりに本を読んで僕を寝かしつけてくれた。絵本などではなく、母自身が今読んでいる小説を読み聞かせてくれたのだ。僕にはまだ早い恋愛や殺人や未来の物語がそこにはあった。「ドグラ・マグラ」の時は表紙の女の人が怖くて、眠くなる前から固く目を閉じていた。
11/24 242
眠ってるね。そうだね。寒いもんね。母さん寒がりだもんね。血が流れてるね。母さんすぐ鼻血出すから。人の臭いがするよ。母さん人を食べたからね。冬眠にはまだ早くない? 僕ら置いてってるね。母さん動かないね。人の臭いが近付いてきたね。母さん死んでるね。うん死んでるね。
11/25 243
夢の話は退屈だ。夜に見るものであれ昼に語られるものであれ。悪夢の苦痛を訴えてくる女と理想の結婚像を語る女に挟まれながら、私は昨晩見た夢を思い出している。悪夢女の夫と結婚女の彼氏と同衾していた。目の前の二人の女達は溶けて混ざり合い臭気を放ち始めるがうまく叫べない。